小説「自転車旅行のつもりが・続編」 その6
さあ、時計の電池を抜いたらどうなるのか!

そして、時計の電池を抜いた・・・

表示がすべて消えた。
さあ、次の瞬間・・・・



何も起こらなかった。
まだ、私はここにいる。
やっぱり、思い違いだったのか。

そして、私はもう一つの時計を手に取った。
こっちの時計は私の次元の時計のはずだ。
時間は、ゆっくり動いている。
まったく変わっていない。

なぜだろう?

いや、待てよ・・・
子供がこの時計を持ってきたときに、こっちの電池と入れ替えたって言ってたな。
と、言うことは、私が抜いたこの電池は私の次元の電池?
私の次元の時計に、この次元の電池を入れていた・・・
つまり、電池が逆になっていたということか!

この時ばかりは、我ながら、なんて自分は頭がいいんだ、と思ってしまった。

じゃあ、入れ替えると元に戻れる・・・
もう、やけくそだった・・・

そして、入れ替えた・・・





しかし、今度もまったく変化がなかった。
どういうことなんだ、今度は絶対うまくいくかと思ったのだが・・・
もう、何をやっても変わらない。
このまま、訳のわからない次元で一生を終えることになるのか!

そうするうちに、またいくつもの風が目の前を通り過ぎて行った。
しかも、今度はかなり早く、長く、・・・

そして、なんと周りの景色がちらつき始めた。
窓の外が電球を入り切りしているような感じで、明るくなったり暗くなったりしている。
なんだろうと、外をのぞいてみた。

私は、この世とは思えない情景を目の辺りにした。
空が明るくなったり暗くなったりして、周りにあるもの全てが凄いスピード変化している。
まるで、ビデオを早送りしているようだ。
山の木々がみるみる色変わりし、花がすごいスピードで咲いては散っている。

人間の動きなんて早くてまったく見えない。
それが、次第に速度を上げていき、みるみる景色・地形の変化が加速しているのがわかる。

すると、一気にあたりは真っ白な情景となり、何もない無機質な風景と変化した。
私は、真っ白な情景にただ一人ポツンと立っている。
終わったのか!
何もかも終わったのだろうか?
しかし、私はここにいる。
なぜ、私の意識が変わらず、そのままなのだろうか?

しばらく、このまま時間が過ぎていった。
何も無い世界。
しかし、目の前に突然現れたものがあった。
何だろう!

目を凝らしてみると、その物質が次第にはっきりとしてきた。

その物質、次第に人間の形になっていたのかと思うと、それは見覚えのある人間に・・・
そう、それは私自信だった。

そして、そのもう一人の私が、私に話しかけてきた。

もう一人の私「やっと会えたね」
私「会えたって、君は誰なんだ。それにここは、どこなんだ」
もう一人の私「ここは、次元と次元の隙間。 私は君、君も君だ・・・」
私「え~、良くわからねぇよ・・・。つまり今までの出来事って・・・」

もう一人の私「君は、いや私は、歴史を変えてしまった。 大変なことをしてしまったのだ。」
私「歴史を変えた?・・・って、今まで起きた出来事、歴史を変えたどころじゃない、意味不明な事ばかりじゃないか」
「それが、何か関係しているというのか?」

もう一人の私「私は、気づかないうちに歴史を変えてしまった」
私「良くわからないが、どこで歴史を変えたと言うんだ」

そして、もうひとりの私が話し始めた・・・

「時間の流れというのは、決して1本ではなく、何本いや何千本、何万本にもなって、それは平行に進んでいる。」
「その一本一本が、それぞれの次元であり、お互い干渉することなくいつまでも平行に流れている。」
「つまり、パラレルワールドだ。」
「しかし、あるタイミングで、その流れの一部が接近してしまった。
つまり、次元の変動が起きたのだ。」
「しかし、何も無ければ、その変動は直ぐに戻り、またそれぞれの次元の流れを進んでいくはずだった。」

「覚えていると思うが、君が、いや私が自転車旅行に行った、ある雨の日のこと・・・」
「はじめに、ある女性に出くわしたね。」

「そう、看護婦だ。」
「その看護婦、よく似てたね・・・妻に!」

「そうなんだ、その女性は、その次元の変動が起きたときに別に次元からの接触で現れたものだったんだ。」
「その時、私は不覚にも声を掛けてしまった。いやかけずにおられなかった。」

「つまり、別の次元の人間同士が接触することは、絶対にあってはならないことだったのだ。」
「歴史を変えてしまったのだ。」
「そこから、次元が変動し始め、平行して重なることのなかったいくつもの次元が交わり始めた。」
「そして、歴史を変えた私を消し始めたのだ。」

「全ての次元に私が存在する。」
「その全ての私を消し始めたのだ。」
「ここは、その次元の墓場のようなものなんだよ。」
「ここにいるのは私たち2人だけではない。」

「これから何千、何万人と私がここに連れてこられるのだ。」
「全ての次元の私を消し去るために・・・」

私「・・・・・」

もう一人の私「無理もないだろう、私もここに連れてこられたときには、どうしようも出来なかった」

私「このまま、私たちはどうなるんだ」
もう一人の私「次から次へと来る私にこうして接触していくことになるだろう・・・いつまでも・・・」

私「・・・・・」
もう一人の私「しかし、落胆することはない。 ここを抜け出す方法は一つある」

私「え、どうすれば・・・」
もう一人の私「歴史を変えなければ、いいのだ。 つまり歴史を変えたときに戻り、何も無かったかのように通り過ぎればいいのだ」

私「過去に戻れるのか・・・」
もう一人の私「ああ、過去に戻るなんて簡単なことだよ」
「次に送られてくる自分がいるからその時に次元の扉が開く。 その瞬間を狙って入れ替われば、うまく過去にも戻れるはずだ。しかし一回しかチャンスはない。」

私「そうか・・・」

もう一人の私「でも簡単にはいかないよ!」

私「でも、その看護婦に声掛けなきゃいいんだろう、簡単、簡単・・・」
もう一人の私「無理・・・。 過去に戻ったとしても、その時の自分は自分でしかない。 今の状況なんて、まったく覚えていないんだ」

私「じゃあ、何か手紙をつけて戻るとか、服に何かメッセージを書いていくとか・・・」
もう一人の私「その次元に存在しないもの、文字も含めて、全て過去に戻った時点で消えてしまうんだ」

私「その次元にあるものか・・・何か、その時に声を掛けずに気を引く事象・・・・」

もう一人の私「もうすぐ、次元の扉が開く頃だ。どうする?」

私「よし、判った。一か八かだ。」
もう一人の私「チャンスは一度だけなんだぞ、いいのか・・・」

私「やるしかない・・・」

そして、次元の扉が開いた・・・・

~最終回へ続く~
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