小説「自転車旅行のつもりが・続編」 その5
私は気が少し動転した。
同じ時計が二つ・・・・

その時、目の前をスーっと風が抜けたような気がした。

直ぐにリビングへ戻ってみると、もう誰も居なかった。
すると、玄関を開ける音が・・・

子供「ただいま」

そう、子供が学校から帰ってきたのだった。
私は、さっきまで、朝、子供と話していたような気がしてたのだが、いつのまに時間が経ってたのだろうか?
ふと、時計を見ると、夕方の4時を回っている。

そして、子供をしげしげと見た瞬間。
なんか、子供が大きくなったような気がした。
気のせいか、まだ小さい小さいと思っていたのだが、子供の成長とは早いものだ。

妻「あなた、いつからか知らないけど、よく黙り込んでる時間が多くなったけど、何かあったの?」
いきなり、背後からの妻の声にビックリした私だった。

私「なんだ、帰ってたのか、いきなり声かけるから、びっくりしたじゃないか」
妻「だって、もう夜なのにずっと部屋で考え事してるんだもの。それにいつまでも子供のことを子供扱いしてたら、あの子がかわいそうですよ。」
私「そうかな?だってまだ子供なんだから・・・」
妻「もう中学生なんですから、少しは扱いを変えてください」

私「え・・・」

もう、中学生だって?
私はまったく気づいてなかった。
そんなに、最近物忘れが酷くなってきたのだろうか?
なんか、頭が痛くなってきたので、今日は晩飯を食べずに寝ることにした。

それからだった。
私の記憶がさらにあいまいになりだしたのは・・・

あれから、どれぐらい経ったのだろうか、外が明るくなっきたので目が覚めた。
なんだ、もう朝なのか・・・

そして、1階へと降りていった。

誰も居ない。
あれ、もうみんな出かけちゃったのか?
しまった、会社に遅れちゃうよ!!
と、時計を見ると、まだ朝の6時だった。

それにしても・・・と、辺りを見渡すと、何か違う!
部屋の中が、なんとなく古めかしく感じるのだった。

そして、玄関で物音がした、と思ったら風のようなものが、スーっと抜けて行ったような気がした。

あれ?っと思い、また部屋に戻ろうとしたとき、何か外で大きな音が・・

外に出てみると、何もない。
気のせいか?

それにしても妻と子供はどこに行ったんだろう?
さっきまで一緒にいたはずなんだが・・・

そして、また部屋に戻ろうとしたとき、また目の前をスーっと風が抜けたような気がした。

そのあと、隣の部屋から何か匂いが漂っているのを感じた。
この匂い、線香かなんかの匂いだった。

みんな隣の部屋に居るのかと思い、隣の部屋へと足を踏み入れた。
しかし、誰も居なかった。

その部屋には、小さな仏壇があり、線香はそこから漂っていたようだ。

あれ?うちに仏壇なんてあったっけ?

そう、仏壇なんて、置いた覚えがないのだ。
今の今までそんなものが無かったのに、なぜ?

そして、恐る恐るその仏壇を覗き込んでみた。
すると、そこには2つの位牌と写真があった。
一人は40歳は過ぎているだろう年配の女性の写真。
もう一つは、20歳ぐらいの男性の写真だった。

そして、その写真をじっくりみた。
次の瞬間、目を疑ってしまった。

そう、その女性の写真は妻の顔に似ている。年は取っているが似ているのだ。
それに、男の写真・・・息子か。
どういうことだ・・・・

私は夢中で玄関を裸足で飛び出してしまっていた。
すると、近所の人が、何やら集まっている。
しかも、こっちを見てヒソヒソと話している。

さらに辺りを見回すと、もう日が暮れかかっていた。
なんだって、もう夕方かよ・・・

私は、何がなんだか判らなくなって、その場に突っ立てるだけだった。
すると、サイレンを鳴らしてくる一台の車が・・・
その車は、私の家の前で止まった。

そして、私を担架に乗せた。
そう、その車は救急車だったのだ。

私は、まったく体が動かず、されるがままに病院に連れて行かれたようだ。
そして、気を失っていたのか、目が覚めた。

やっぱり、ここは病室だ。
周りには、看護婦やら先生らしき人が居る。

先生「あ、やっと目を覚ましたようだね。」
私「あ、ここは?ここはどこですか?私はどうしたのでしょうか?」

先生「君はもう1週間も眠り続けていたんだよ」

私は、またあの忌々しい出来事を思い出した。
また、あの病室に戻ったのか、それともまだあの病室のまま夢を見ていたのか?
逆にそうだとしたら、良かった・・・と思った。

先生「君はあの時以来、精神が不安定になって、手につけられない状態だったのだよ」
私「あの時・・・」

あの時って、いつのことだろう?
自転車で事故にあったときなのだろうか?

私「あの時って、いつからなのですか?」

先生「もう、1年も前のこと、奥さんと子供さんを事故で亡くして以来だよ」

私「え?事故で??」

じゃ、あの仏壇の位牌と写真・・・
それに、1年前だって?

先生「君は覚えてないのかね?1年前に不慮の事故で奥さんと子供を亡くして以来、情緒不安定になり、入退院を繰り返していたんだよ。 そして1週間前に退院を抜け出した・・・」

私「え!まったく覚えてないです。 記憶が途切れ途切れで、未だに子供が小さい頃の記憶しかないんです。」

そう話をしていたかと思ったら、また、スーっと記憶が飛んだ。

そして、またいくつもの風が抜けていったような気がした。
今度は、かなり長い時間だった。

何なんだ、ここはどこだ!
よく周りを見渡すと、どこかの古い部屋で倒れている。
おかしいぞ、さっきまで病室にいたはずなのだが・・・・

周りを見ると、蜘蛛の巣だらけ、まるで古い家に閉じ込められてるようだった。

ふと手元に、時計が2つ!

なんだ、この時計は・・・?
そうか、子供に買ってあげた時計だ!!

その時計をあらためてよく見てみた。
すると、一方に時計はあのときから1日しか経っていない。
つまり、物凄く時間の進み方が遅いのだ。

しかし、もう一方の時計・・・
そう、その時計は、あのときから10年以上も経過している。

もしかして、時間の進み方が極端に遅い時計、これが私の次元の時計で、10年以上経った時計、これがこの次元の時計なのだろうか。

この時計のせいで、お互いの時間が干渉しあって、時間が進んだり、止まったりしていたのか。

同じ次元に存在するはずのないこの2つの時計・・・

やっぱり、私はここに居る人間じゃないんだ。

これから、どうすればいい!
このままだと、生きてる心地がしないぞ。

いや待てよ。
この2つの時計、もしかしてどちらかの電池を抜くとどうなるのだろう?

もし、元の世界の時計を止めたら、この世界の人間としてまともに生きていけるのだろうか?
しかし、もう既に遅いのかもしれない。
今がいつなのかも判らない・・・

そして、決断したのは、この次元の時計を止めることだった。
それは、家族を失いたくなかった、それだけだった。

そして、時計の電池を抜いた・・・




~続く~
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