小説「自転車旅行のつもりが・続編」 その4
~玄関前に来た。

胸の鼓動が高まるのが感じられる。
まったく違う人物が出てきたら、どうする。
また、見知らぬ男が出てきたらどうする。

今まで起きた事が、走馬灯のように頭の中を過ぎる。
ここまで、自分自身、理解の限度を超えた事象を経験しているだけあって、このまま夢で終わって欲しいというのは、あくまで願望で、もうこれ以上話の展開が変わること自体避けたい。

ドアにキーを差込んだ。
キーが入った。
やっぱり、今までの事は夢であって欲しい。
何もかも私の記憶から消し去ってくれないだろうか・・・

そっと、ドアを開けた。




家の中は静まりかえっている。
先ほどまで表にいたときには、部屋の電気が付いてるように見えたのだが、長い間玄関前に居たせいだろう。
もう、部屋の中は真っ暗だった。

私は、そっと玄関から上がり、リビングへと入っていった。
そして、電気を付けた・・・

何も変わってない。
いや、同じだ。
テーブルの上は、綺麗に片付けられている。
部屋の配置も、置いている物も、私の記憶が正しければ何も変わっていないようだ。

ふと、時計を見た。

なんと、夜中の2時を過ぎていた。
夕方には、家の前に来ていたと思っていたが、考え込んでいるうちにこんなにも時間が経っていたのか!

私は、そっと2階にある寝室へと上がっていった。

私の記憶が正しければ、私の妻と子供にそっくりの顔をしてるはずだ。
暗がりではあったが、顔を見た瞬間、そこに寝ているのは、正真正銘の妻と子供だ。
そう、確信するほかはなかった。

しかし、このまま起こすわけにはいかず、私は直ぐに寝室を出て行き、1階のリビングへと降りていった。
そして、そこにあるソファで寝ることにした。
私は、安堵感からか、直ぐに眠りに付いた。

しかし、直ぐに子供の声で目が覚めた。
どれくらい、寝てたのだろうか?
ほんの数分前に眠りついたかと思うほど、あっという間の時間だった。

そして、子供の声と妻の声で、私は正気を取り戻した。

子供「パパお帰り!」
妻「昨日、夜遅くまで待ってたけど、なかなか帰ってこないから、もう一晩どこかで泊まっているのかと思ったのよ! 携帯にかけても?がらないし・・・」

ああ、私の家族だ。
この一瞬で、今まで起きたことを全て忘れてしまったのだ。



それから、今までどおり元の生活へと戻り、家族3人で過ごすことになった。
そう、過去のことを全て忘れ・・・

私の幼少の記憶、その周辺に関わったもの過去の全てが同じなのだから・・・

そんな、しあわせな日々を取り戻した自分であった。
月日もあっという間にあの忌々しい事から約1年が経とうとしていた。
実に早く感じる。
本当に1年も過ごしていたのかいうぐらい、月日が流れるのは早いものだ。
子供もみるみる内に成長していく様が伺える。

そんな、しあわせな生活を取り戻し、全てを忘れようとした時だった。
今日は休み、昼間コーヒーでも入れてくつろいでいたところであった。
その時つい手が滑って、コーヒーをこぼしてしまった。

その時、何か大きな音が・・・

「Pipipipi・・・・・・」

何だろう?何かのアラームのようだが・・・
その音の方向を探すと、テーブルの下にあった私のサイクルウェアからだった。

ウェアには小さなポケットがある。
なにが入っているのだろうと、探ってみると・・・時計だった。
それは、1年以上前に子供に買ってあげたおもちゃの時計だった。
私が自転車旅行に行く時に、子供がいたずらで入れたんだな。

しかし、なんで今頃アラームが・・・
その時計を見ると、電池を入れる裏蓋が完全に閉まってなく、その隙間からこぼれたコーヒーが入りショートして、そのせいでアラームがなっていたようだ。
私は、その時計を綺麗にして、蓋を閉めなおし、そっと子供部屋の机の上に置いた。

そして、その翌日の朝のことであった。

子供「パパ、この時計・・・」
私「ああ、それはお前に買ってあげた時計だったな」
子供「この時計、動かなかったんで、もう一つの時計の電池と入れ変えたよ」

私「え?もう一つの時計って?」

子供が差し出した時計、まったく同じものが2つだった。

私「えっ!時計が二つ・・・」

そう、確かに子供に買ってあげたデジタル時計、まったく同じものだった。
2つ買った覚えがない、似たようなものがたまたまあったのか?

そして、その2つの時計を見比べてみると、一方はちゃんと動いていて、現在の時間を示している。
しかし、見つけてきた時計は、表示はしてあるが、止まっているように見えた。
デジタル時計だから、電池がなくなっているのであれば、表示が消えてるはずだ。

コーヒーをこぼしたから、壊れちゃったのかな?
よく凝らして見ると、表示されている時間に、約1年のずれがあったが、止まっているのではなく、秒の表示がゆっくりと動いていたのだ。
なんだ、一応動いてるんだ、凄い遅いけど。
そして、裏の製造番号を見ると、まったく同じ・・・

次の瞬間、私は、ハッとあることに気づいた。
2つ同じものがある・・・とうことは

この星に来た私、本来ならこの星の私がもう一人居るはずだ。
同じ次元に同じ人間は2人存在しないという法則からいうと、この世界では私は一人のはずである。
この時計、私のウェアに入っていたもの。
もしかして私の時限から一緒に来た時計なのかもしれない。

となると、この2つの時計が同時に存在することはありえないはずだ。

いや、もう、そんなことは考えたくない。

しかし、また、何か嫌な予感がする・・・・

~続く~
小説「自転車旅行のつもりが・続編」 その5