小説「自転車旅行のつもりが」その7: 最終回:現実へと~
■7「最終回:現実へと~」

目が覚めた。

どれぐらい気を失っていたのだろうか?
周りが白く見える。
何か、見覚えのある情景だ。

周りに人影はない。
もちろん、妻や子供も居ない。

白い壁に、窓。
この消毒の匂い。

そう、あの時の病室に戻っているようだ。
また、繰り返すのか・・・

このあと起こることは、だいたい判る。
病室のドアが開いた。

それ見ろ、妻とそっくりな看護師が来るぞ!
今度は、なんと言ってやろうか。

そして、中に入ってきたのは、妻の顔をした看護師でも、ベテランの看護師でもなかった。
そこに立っているのは、子供を連れた女性だった。

そう、私の妻と子供だったのだ。

妻「あなた、大丈夫?病院から電話があって、あなたが自転車で旅行中に事故にあったって言うから」

私「えっ?事故?」

妻「急いで、飛んできたのよ。先生に聞いたら、岸壁から誤って海に落ちたって言うじゃないの。
でも、軽い脳震盪だけだったって言うので、安心したわ」

私「海に落ちたって?また、夢か・・・もう、いい加減にして欲しいな」

妻「夢って?ずいぶん気を失ってたんで、仕方ないでしょうね。これ、あなたが書いた手紙でしょ!ちゃんと行き先を書いてあったから、病院から電話があった時に直ぐ判ったのよ」

確かに私が書き残したメモに間違いなかった。
しかし、その後の記憶がない。
海岸なんて走った覚えがないぞ。これも夢じゃないのか・・・
なんか、騙されているような気がしてならない。

いや・・・・
そう言えば、海に向かって真っ直ぐに走ったあの日・・・
てっきり、道を間違えたか、あの看護師に騙されたかと思っていたが?

そう言うことだったのか!
参ったなぁ!自転車旅行に出たはいいが、途中で事故って病院でうなされていたなんて誰にも言えない!

こうして、私の一週間の休暇は、自転車事故から、訳のわからない夢にうなされて終わってしまった。
なんとも、人騒がせな、夢だった。
こんな、おかしな夢は初めて見た。
しかし、良かった。本当に良かった!

今度ばかりは、いいかげんに真実なんだと確信した。

そして、妻と子供が、病室から出て行った・・・



病室の外には2つの影。
妻と子供の影だ!

とにかく、疲れた。
夢見て疲れるなんて、おかしな話だ。
もう一休みすることとしよう。
今度は、もっと穏やかな夢を見せてくれよ!

そして、私はゆっくりと目を閉じた・・・・・・。



その時、病室の外では・・・

子供「彼は、まだ君を妻という人間と思っているのかね?」

妻「はい、しかし、今度はその妻という人間になりきってみようかと思います。 そうすれば、彼の本当の記憶を戻す事が出来るかもしれません。」

子供「そうか、しかし丁寧に扱ってくれよ! 大切な生き残りなんだから」

妻「そうですね!何しろ1000年もの間、氷の中に冬眠状態で閉じ込められて居たんですものね。
1000年前に、ここで何が起こったのか、過去を知ることが出来る最後の生き残りですもの・・・この星の!」

子供「そう・・・この星の!」

妻「しかし、あなた、今度は、彼の子供という人間になりきるつもりなの?」

子供「そう、私には、この体が合っているような気がするんだ」

子供「それにしても、彼の記憶を現実化するのは、とても苦労したな。 この星の人間は、こんなにも空想力が豊かだなんて予想外だった・・・・!
何度も流れの転機を強いられたよ!!」



<終わり>


■「エピローグ」

長い間、訳のわからない長編ドラマに付き合って頂き、ありがとうございました。

自転車で旅に出た彼の身に起こったこと、それは単なる事故ではなかった。
海に向かって走っていた彼。
その時、地球に突然の異変が・・・

地球上にある核施設が、突然謎の大爆発を起こし、生物全てが滅亡するという、一瞬の出来事であった。
運良く、海底の奥深く沈んだ彼の体は、氷の中に1000年もの間、閉じ込められていたのだった。

1000年後、この地球の近くを通りかかった異星人。
その異星人に発見され、この星の調査が始められた。
つまり、この星で唯一生き残りであった彼の1000年前の記憶を蘇えらせようとしたのだ。

しかし、それは「記憶」というより、彼の凄まじいばかりの「空想力」を蘇えらせたに過ぎなかった。

THE END