小説「自転車旅行のつもりが」その6: 真実はどこに~
■6「真実はどこに~」

休暇も最後となり、家族団欒での夕食となった。
一週間というのは、長いようで、過ぎてしまえばあっという間だ。
子供の教育の話、最近のTVの話など、めったに会話がなかっただけに、とても楽しめた日々だった。

普段、平日に休めなかったし、ましてや朝早くから夜遅くまで仕事だったので、ほとんど子供との会話もなかった。
この一週間、自分の子供がこんなに成長していたのが、はっきり分かった。

しかし・・・・・
そんな団欒のひと時、突然、玄関で何やら物音がした。

その音に反応して、子供が玄関へ!
そのあとを追うように、妻が!

そして、私が玄関に行き、そこで見たものは・・・

一人の見知らぬ男が玄関に勝手に入り込んで、何か言っている。
自分がここの住人だと、訳のわからないことを言っているのだ。
家族団欒を壊されて、気が立っていた私は、その男を怒鳴りつけた。

私「おい、いいかげんにしろよ!警察呼ぶぞ!」

その男は、慌てて飛び出していった。

次の瞬間、ハッと気づき、私と妻は立ちすくんだ。
そう、私が夢だと思っていたことが、現実で起きているのだ。
二人で顔を見合わせ、だんだん血の気が引くのを感じた。

しかし、その男は私ではなかった。
いや・・・・私だったのかもしれない。

またか・・・・!
どういうことなんだ。

また、現実と夢の境がわからない状況で、正気を取り戻そうと、私は妻と子供を一生懸命抱きしめていた。
もう、家族を失いたくない。
その思いでいっぱいだった。

すると、私たちのすぐ後ろで何か気配を感じた。
誰か居る。先ほどの男なのか?
そっと振り向いた。

そこに立っているのは、あの刑事だった。

刑事「いやぁ、探したよ!どこに居るのかと思って見つけるのに苦労したよ。まさか、過去に戻っていたとは知らなかった」

私「どういうことなんです?戻っていたって、どういうことなんですか?」

刑事「タイムスリップだよ。このような状況になっては、仕方ない。本当の事を言おう。
実は、私は刑事ではないんだ。今から1000年先から来た人間なんだ」

私・妻「え・・・・・・・・?」

男「実は、今から1000年先の話になるが、私たちは時空を自由に操作して、過去の物質を未来へと移動させる実験を行なっていたんだ。
その実験中に、時空に揺らぎが発生し、ある時間軸に歪が出来た。
その歪を調べてみると、この時代の時間軸と一致していたと言うわけだ」

私「何を言っているのか、さっぱりわからないんですが」

男「あっ!ごめんごめん。まだ、この時代にタイムトラベルっていうのは、無かったんだったね」

男「実は、その移動した物質というのが、目に見える物質ではなかったんだ。やっかいな事に、それは人間の“心”だったんだ。
それがひとつの心ではなく、何人かの心と混ざり合い、この時代に移動してしまった。その時間が、今から1時間後のこの場所だ」

私「えっ!」

男「はっきり言おう、その心は、君の奥さんの中に入り込むのだ」

3人の男の妻。
妻に似た看護師。
別々の人間の心が、彼女を多重人格にしたのか!

・・・って、本当かよ!また怪しいぜ。
もしかして、裏から、これは「ドッキリ」でした・・・なんて出てくるんじゃないだろうな!!

男「そして、君の奥さんが、この先1000年後の未来を変えてしまった」

それを聞くと、妻は倒れてしまった。
私「おい、大丈夫か。ほら見ろ、お前が変なこと言うから気絶したじゃないか!」

男「この場所で、その心が現れた瞬間、タイムスリップさせ、元の世界に戻すことが出来れば、未来は変わらないはずだ。
しかし、本人が気絶してると、どうなるのか、分からない。」

私「おいおい、いいかげんにしろよ。まるで作り話みたいじゃないか・・・」
私「そんなのSF小説の世界だよ。マジかよ!!」

そして、私は妻を起こそうと、しきりに呼びかけた。
私は、何度も妻を起こそうとしたが、まったく反応がない。
それどころか、自分の意思で起きないようにしてるようにも思えた。

男「もう、遅い!時間が無い。あと1分だ!」

私「えっ?1分だって・・・どうしよう」

私は、妻をしっかり抱きしめた。しっかりと!

次の瞬間、辺りは真っ暗になり、私は、またどこかに移動したようだ。

そのうち、意識は薄れていった。

<~続く~>
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