小説「自転車旅行のつもりが」その5: 振り出しに~
■5「振り出しに~」

私「ところで刑事さん、妻は何か事件でも起こしたんですか」
刑事「いや、それは話せない!申し訳ないが、まだ君に話す訳にはいかないんだ」

しかし、先ほどの病院で夢を見たのは、もしかして、もう一人の男が死ぬ前に私に伝えたかったことなのか?
彼の見た情景を、私にそっくり見せてくれたのか!

妻に似た看護師。どうも、引っかかる!
それに、保険証まで書き換えられているなんて・・・

とにかく、電話だよ!
誰かに、電話をしないと。
と思い、受話器を取った瞬間・・・・

体に電気が走ったような激痛が・・・
一瞬、目の前が真っ暗になった。
我に返った瞬間、直ぐに辺りを見回した。

今度は、何も変わってない。良かった。
電話器が、ショートしていたのだろうか!

私は、刑事さんに、伝えようとしたとき・・・
居ない、刑事さんの姿が見えない。
さっきまで、隣に居たはずなのに・・・

しかも、何となく部屋の雰囲気が変わっているようだった。
ふと、テーブルの上に目をやると、何か置いてある。
そう、それは妻へあてた手紙だった。

しかし、おかしい!
この封筒、封は糊付けしてないが、まったく開けた形跡がないのだ。
その時、外で物音がした。
バイクの音だ。

何だろう?と外に出ると、さっきまで明るかったのに、もう薄暗くなっている。
そのバイクは新聞配達だった。

でも、うちは、夕刊なんて取ってないのに、間違えて入れて行きやがったな!と思い、仕方なく新聞を取り出した。
しかし、その新聞は夕刊でなく、朝刊だった。
あれっ?朝刊を入れ忘れていたのかな?
と、新聞に目を通した時・・・

なんと、日付を見ると、私が自転車旅行に出発した日だった。
あわてて部屋に戻り、時計を見ると・・・朝の5時半。

これは、一週間前に家を出発した時間じゃないか。
そう言えば、出発するときに新聞配達のバイクとすれ違っていた。

どういうことなんだ!
そして、リビングのテーブルに目をやると、先ほどまで置いていたはずの手紙がなくなっている。
それよりも、私がパジャマ姿になっている。

恥ずかしい。
いや、そういう問題ではない。
どういうことだ・・・

その時、寝室で何やら物音がした。
誰か居るのかと、寝室に行ってみた。

部屋に入った途端、またビックリした。
妻と子供が寝ているではないか。
今まで誰も居なかったのに、狐につままれた思いだった。

そっと、妻を起こして、今まであったことを話してみた。
初めは、あきれて物も言えない妻だったが、次第にあまりにもくだらない私の夢物語にお互い喧嘩していたことも、どこか吹っ飛んでしまったようだ。

話を聞くと、さっきまで一緒に寝ていたと言うではないか。
つまり、まだ、どこにも出発していなかったのだ。

そう言えば、ここのところ推理小説やら、ミステリーなんか見まくっていたからな!
それが夢に出てきても、おかしくないのかもしれない。

私は、決心した。自転車旅行は止めだ。
一週間、家族と一緒に過ごそうと決めた。
この時ほど、家族の有り難味が判った事はなかった。

そして、この一週間と言うもの、久しぶりに家族で楽しく過ごす事ができ、あの変な夢のことなんて、もう頭の中から消え去った。

<~続く~>
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