小説「自転車旅行のつもりが」その2: 情景変化・・・
■3「情景変化・・・」

それから何時間経ったのだろう?
狐につままれたような気持ちで、いっぱいだった。
たった、一週間しか経っていないのだ、当然、我が家を忘れるはずもなく、ましてや妻や子供の顔を忘れるはずもない。

時間を見ると、夜中の2時。
もう、こんなに時間が経っていたのか!

その時、ふと、思い出したことがあった。
そうだ、私は自分の鍵で玄関あけたんだよな。
じゃあ、やっぱり私の家なんだ。
よし、もう一度、何があったのか突き止めてみよう。

そう思い、家まで戻り、玄関に近づいた。
もう、真っ暗で、寝静まっているころだ。

そっと、鍵穴にキーを差し込んだ。

はっ、入らない。

さっきは、このキーでドアを開けたはずなのに、今度はまったく入らない。
鍵穴が違うのだ。

その時、家の中から物音がした。
咄嗟に、その場を立ち去った。

また、無我夢中に走った。
気づいたら、海岸まで来ていた。

何が起こったのだろう?
まさか、自分が記憶喪失?そんなわけはない!
妻と男がグルで私をからかっているのか?
何かが変わっている、一週間、家を空けている間に何かが変わっているのだ。

それから何時間経ったのだろうか、夜が明けかかっていた。
昨夜のことが、もしも夢だったら、どんなに幸せなことかと、これほど思ったことはなかった。
本当に夢であって欲しい。

訳のわからないまま、私は睡魔に襲われ気を失った。

次の瞬間、周りの景色がガラッと変わっていた。
白い無機質な壁、壁の真ん中あたりには窓がある。
横にはテーブルが置かれ、水差しに花が生けてある。

ここは、何処だろう?
しかも、部屋中に何か独特な香りが漂っていた。
これは、消毒の匂いだ。

ふと、我に返った瞬間、私は病院のベッドに寝ていることに気づいた。
意外な展開だった。

部屋に私のほかに誰か居る。
どうも看護師の女性のようだった。

そして、その女性が言った。
「目が覚めましたか?」

私は、なんでこんなところに居るのだろうか?
良く憶えてない。今までの出来事は全て「夢」だったということなのか。
そうだとすると、かなり支離滅裂だ・・・
なんだか、自分がおかしくてたまらなかった。

そして、看護師の女性に事情を聞いてみようと、顔を見ると・・・
なんと妻にそっくりではないか?
あの時の・・・

私「もしかして、君は・・・?
俺、いつからここに居るんだ?
何があったんだ?」

つい興奮して、質問攻めにしてしまった。

看護師「何を言ってるんですか?入院してもう1ヶ月じゃないですか!」

私「え~!1ヶ月?そんなに長く入院してるの??
そんなに大変な怪我だったのか」

女「えっ、怪我って? 患者さん、胃潰瘍で入院してるんじゃないですか!
今日は検査の日ですよ。あと1週間もすれば退院できますから・・・」

話していると、この女性、妻ではなく看護師だった。
しかし、妻に良く似ている。

女「夕方、検査がありますから、ゆっくり寝ていて下さいね」
そう、言い残し病室を出て行った。

私「・・・・・・」

どうなっているんだ!自転車に乗っていたのかと思えば、いきなり病院で寝ている。
記憶が途切れ途切れだ。 これも「夢」なんだろうか?

しかし、あの看護師、何ものなんだ。
夢に出てきた看護師、いや夢だったかどうかは判らない。

とりあえず、もう一度詳しいことを聞こうと、ベッド横にあるコールボタンを押してみた。

数分後、病室のドアが開き、看護師が入ってきた。
しかし、先ほどの妻にそっくりな看護師では無かった。
入ってきたのは、かなりベテランの看護師であった。

看護師「はい、何か調子が悪いところでも?」
私「あの、先ほどここに居た若い看護師さん知りませんか?」

看護師「えっ?看護師って、今日は私だけですよ」
私「えっ?でも先ほど若い看護師さんが来られて、今日検査ですよって、言っていましたけど。」

看護師「また、冗談を。何を検査するのですか?たんなる打撲だけじゃないですか
自転車で転倒されて、運ばれてきたのですよ」

私「えっ!俺、やっぱり自転車事故なの?」
看護師「あらっ!覚えてないのですか?頭も検査しないといけないのかしら? 自転車なら病院の駐輪場にありますよ」

なんだか、どこから夢でどこが現実なのか、境目がつかなくなってしまった。
しかし、妻に似た看護師、夢だったのだろうか。

自転車事故からいきなり病院のベッド、そしてリアルな夢。

<~続く~>

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