小説「自転車旅行のつもりが」その2: 旅行から帰ると~
■2「旅行から帰ると~」

スタートして、2日間は、まずまずの天気に恵まれ、快適なツーリングであった。
しかし、3日目には、いきなりの夕立が私を襲った。

どこかで雨宿りをしようと探すと、一軒の古びた病院を見つけた。
この駐車場の上に僅かながら屋根がある。

時間にして1時間ぐらい経っただろうか。
雨が止みかけ、そろそろ出発かと思ったとき、一人の女性が病院から出てきた。
服装からして、看護師のようだ。
後姿だけではあるが、長い髪を束ねていて、とても綺麗な感じだ。

折角の一人旅だ、なんとなく出会いというものを期待してしまう。
直ぐに私はその女性に声をかけた。

私は、その女性の顔を見るなり、びっくりした。
そう、妻にそっくりだったのだ。
まさか、こんなところで妻にそっくりな女性に会おうとは・・・

しかし、ちょっと戸惑いつつも、話しかけてみることにした。

私「自転車で旅行してるんですが、この辺りで景色のいいところはないですか?」
女性にいきなり声をかけるときは、まず自分のことから話すのが一番だろう。まず警戒心を和らげないといけないし。

女性「えっ?あっ、旅行されてるんですか・・・すいません驚いてしまって」

私「いいんですよ、いきなりこんなびしょ濡れの男から声をかけられたら、誰だって驚きますよね。
初めて来るところなんで、どこかいい景色が見えるところは、無いのかな?と思いまして」

女性「それでしたら、この道を真っ直ぐに行くと綺麗な海に出ますよ」

私「ありがとう御座います。」

私は、彼女の言われるままに、真っ直ぐに進んだ。

約1時間ぐらいは走っただろうか?
海なんてまったく出てこない、海どころか山ばっかりじゃないか。
これって、どこかで道間違えたのかな?
それとも、彼女に適当に騙されたってこと?
妻の顔にそっくりなだけに、仕打ちを受けているような気もした(笑)

結局、海を見ることが出来ず、山と畑ばかりの道をただひたすら走ってただけだった。
それ以降、ほとんど出会いという出会いはなく、なんとなくつまらない旅行になってしまったのだ。

一人旅、自分だけの旅だったはずなのに、何か出会いに期待するところは、やはり完全に孤独になりきれない部分をもっているのだと思った。

そして、遂に予定の一週間が経ち、最終日の夕方。

疲労と体力の限界を感じつつ、なんとか我が家に戻って来た。
既に妻と喧嘩していたことさえも忘れ、早く顔を見たい。
そんな気持ちでいっぱいだった。

この時こそ家族の有り難味というのが、身に染みて判ったことは無かった。
やっぱり、家族って素晴らしい!!
妻の顔を見たい。子供を抱いてやりたい。

一週間ぶりではあるが、家の前まで来ると、とても懐かしい。
まるで他人の家のような感じさえする・・・。

もう、ここまで来ると、逆に家族を驚かしてやろうかという、悪戯心まで出てきた。
玄関までそっと近づくと、駐車場に違う車が止まっている。
どうも、お客さんが来ているようだった。

仕方なく、しばらくお客さんが帰るのを待ってみた。
今は夏、日没まではまだ時間がある。
少し夕涼みのつもりで、近所を自転車で回ってみた。

それから2時間は経っただろうか、また家に戻ってみたが、まだ車がある。
もう、暗くなったので、入ることにした。

玄関には鍵がかかっている。
その時は、当然のことだと思っていた。

しかし、お客さんが居るのに鍵なんか掛けるはずが・・・
そう、気づいたのは、事が始まった後のことだった。

玄関の鍵穴に手持ちのキーを差込み、そっとドアを開けた。
音に気づいたのか、中から子供が出てきた。
そのあと、妻が出てきた。
どうしたの?という感じで、私の顔を見るなり、同じく立ち尽くした。

あまりに急な出現に戸惑ったのか、それを通り越したのだろうか?
そして最後に、お客さんだろう、男の人が出てきた。
私のまったく知らない男だ。
もちろん、その男も不思議そうな顔で、私を見つめた。

妻「どちら様でしょうか?」
男「えっ、お前の(妻)の知合いじゃないのか?じゃあ誰なんだ?」

なぜか、その違和感のあるセリフに不信感を抱き、ついカッとなって、怒鳴ってしまった。

私「おいおい、やっと帰って来たのに、そんな言い方はないだろう!」
私「勝手に一週間留守にしていたけど、ちゃんと行き先は伝えておいただろ!」
私「それにその男は誰だ!」

男「おい、お前こそ誰だ!人の家に勝手に上がりこんで・・・」

人の家・・・思いがけないセリフに戸惑いつつ、私は言った。

私「どういうことだ、俺の留守中に何があったんだ・・・!」

しかし、その後の妻と子供の言葉で、私は一気に血の気が失せた。

妻「どなたですか?お家、間違っているんじゃないですか?」
子供「ママ、このおじちゃん誰?」

男「おい、いいかげんにしろよ!警察呼ぶぞ!」

その言葉で、私は無我夢中になって、そこを飛び出した。
自転車に飛び乗り、どこをどう走ったか判らないぐらいに走りまくった。
これは、夢だ。
夢なら、覚めてくれ!

私の家は・・・、家族は・・・

<~続く~>
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