小説「自転車旅行のつもりが・続編」 その7(最終回)
~そして、次元の扉が開いた・・・・





自転車旅行、スタートして2日間は、まずまずの天気に恵まれ、快適なツーリングであった。
しかし、3日目には、いきなりの夕立が私を襲った。

どこかで雨宿りをしようと探すと、一軒の古びた病院を見つけた。
この駐車場の上に僅かながら屋根がある。

時間にして1時間ぐらい経っただろうか。
雨が止みかけ、そろそろ出発かと思ったとき、一人の女性が病院から出てきた。
服装からして、看護師のようだ。
後姿だけではあるが、長い髪を束ねていて、とても綺麗な感じだ。

折角の一人旅だ、なんとなく出会いというものを期待してしまう。
直ぐに私はその女性に声をかけようとした。

そのとき、ウェアのポケットからアラーム音が鳴り出した。

なんだろう?と慌ててポケットに手を入れると、その中に入っていたのは時計だった。

この時計は、子供に買ってあげたおもちゃの時計だ。

私「なんでこんなところに入ってるんだ?子供の仕業か・・・・」

私は時計を取り出してアラームを止めようと裏返してみたら、裏蓋が完全に閉まってなく、その隙間から雨水が入っていたようだ。
雨水でショートして、アラームが鳴ったということだったのだろう。

とんだ、ハプニングだ。

しかし、そのせいで、その女性はもう居なくなっていた。

私「う~ん!残念だ。これも内緒で出てきた罰ってことかな?」

でも、まだいろいろな出会いがあるだろうから・・・

私は、また先へと進んで行った。
ここから、先に進めば海にでるはずだ!

やっぱり、自転車旅行は楽しい・・・



■エピローグ

過去に戻った私がやったこと、それは簡単なことだった。
時計である。

とにかく、何もかもこの時計がキーワードだった。

この時計は、すでに私のウェアに入っていたものだったとしたら、私と一緒に次元を超えた物の一つだった。

しかし、この時点では、この時計の裏蓋はきちんと閉じていたと思われる。
そのため、少しばかり緩めておいたのだ。
あくまで一か八かの賭けだった。

過去に戻った時点で、その僅かな緩みは次元のひずみにまったく影響を与えなかったのだろう。
そのため、そのままの状態を維持でき、そこから水が浸入したわけだった。

でも、どのタイミングでショートし、アラームが鳴るかだけは、見当が付かず、ほとんど運任せだった。








■エピローグのエピローグ

キーワードは、同じ次元に存在するはずのない2つの時計・・だが

この時計、本当に蓋の緩みが、次元に影響与えなかったのだろうか?


いや、影響を与えていた。

実は、過去に戻ったつもりが、そこは別の次元だった・・・ってこともありえるわけである。



歴史を変えることは、出来ない!

だから、歴史は変わっていない!!






彼は、次元を超えて、永遠に自転車旅行を続けるでしょう!




~本当に終わりです~
小説「自転車旅行のつもりが・続編」 その6
さあ、時計の電池を抜いたらどうなるのか!

そして、時計の電池を抜いた・・・

表示がすべて消えた。
さあ、次の瞬間・・・・



何も起こらなかった。
まだ、私はここにいる。
やっぱり、思い違いだったのか。

そして、私はもう一つの時計を手に取った。
こっちの時計は私の次元の時計のはずだ。
時間は、ゆっくり動いている。
まったく変わっていない。

なぜだろう?

いや、待てよ・・・
子供がこの時計を持ってきたときに、こっちの電池と入れ替えたって言ってたな。
と、言うことは、私が抜いたこの電池は私の次元の電池?
私の次元の時計に、この次元の電池を入れていた・・・
つまり、電池が逆になっていたということか!

この時ばかりは、我ながら、なんて自分は頭がいいんだ、と思ってしまった。

じゃあ、入れ替えると元に戻れる・・・
もう、やけくそだった・・・

そして、入れ替えた・・・





しかし、今度もまったく変化がなかった。
どういうことなんだ、今度は絶対うまくいくかと思ったのだが・・・
もう、何をやっても変わらない。
このまま、訳のわからない次元で一生を終えることになるのか!

そうするうちに、またいくつもの風が目の前を通り過ぎて行った。
しかも、今度はかなり早く、長く、・・・

そして、なんと周りの景色がちらつき始めた。
窓の外が電球を入り切りしているような感じで、明るくなったり暗くなったりしている。
なんだろうと、外をのぞいてみた。

私は、この世とは思えない情景を目の辺りにした。
空が明るくなったり暗くなったりして、周りにあるもの全てが凄いスピード変化している。
まるで、ビデオを早送りしているようだ。
山の木々がみるみる色変わりし、花がすごいスピードで咲いては散っている。

人間の動きなんて早くてまったく見えない。
それが、次第に速度を上げていき、みるみる景色・地形の変化が加速しているのがわかる。

すると、一気にあたりは真っ白な情景となり、何もない無機質な風景と変化した。
私は、真っ白な情景にただ一人ポツンと立っている。
終わったのか!
何もかも終わったのだろうか?
しかし、私はここにいる。
なぜ、私の意識が変わらず、そのままなのだろうか?

しばらく、このまま時間が過ぎていった。
何も無い世界。
しかし、目の前に突然現れたものがあった。
何だろう!

目を凝らしてみると、その物質が次第にはっきりとしてきた。

その物質、次第に人間の形になっていたのかと思うと、それは見覚えのある人間に・・・
そう、それは私自信だった。

そして、そのもう一人の私が、私に話しかけてきた。

もう一人の私「やっと会えたね」
私「会えたって、君は誰なんだ。それにここは、どこなんだ」
もう一人の私「ここは、次元と次元の隙間。 私は君、君も君だ・・・」
私「え~、良くわからねぇよ・・・。つまり今までの出来事って・・・」

もう一人の私「君は、いや私は、歴史を変えてしまった。 大変なことをしてしまったのだ。」
私「歴史を変えた?・・・って、今まで起きた出来事、歴史を変えたどころじゃない、意味不明な事ばかりじゃないか」
「それが、何か関係しているというのか?」

もう一人の私「私は、気づかないうちに歴史を変えてしまった」
私「良くわからないが、どこで歴史を変えたと言うんだ」

そして、もうひとりの私が話し始めた・・・

「時間の流れというのは、決して1本ではなく、何本いや何千本、何万本にもなって、それは平行に進んでいる。」
「その一本一本が、それぞれの次元であり、お互い干渉することなくいつまでも平行に流れている。」
「つまり、パラレルワールドだ。」
「しかし、あるタイミングで、その流れの一部が接近してしまった。
つまり、次元の変動が起きたのだ。」
「しかし、何も無ければ、その変動は直ぐに戻り、またそれぞれの次元の流れを進んでいくはずだった。」

「覚えていると思うが、君が、いや私が自転車旅行に行った、ある雨の日のこと・・・」
「はじめに、ある女性に出くわしたね。」

「そう、看護婦だ。」
「その看護婦、よく似てたね・・・妻に!」

「そうなんだ、その女性は、その次元の変動が起きたときに別に次元からの接触で現れたものだったんだ。」
「その時、私は不覚にも声を掛けてしまった。いやかけずにおられなかった。」

「つまり、別の次元の人間同士が接触することは、絶対にあってはならないことだったのだ。」
「歴史を変えてしまったのだ。」
「そこから、次元が変動し始め、平行して重なることのなかったいくつもの次元が交わり始めた。」
「そして、歴史を変えた私を消し始めたのだ。」

「全ての次元に私が存在する。」
「その全ての私を消し始めたのだ。」
「ここは、その次元の墓場のようなものなんだよ。」
「ここにいるのは私たち2人だけではない。」

「これから何千、何万人と私がここに連れてこられるのだ。」
「全ての次元の私を消し去るために・・・」

私「・・・・・」

もう一人の私「無理もないだろう、私もここに連れてこられたときには、どうしようも出来なかった」

私「このまま、私たちはどうなるんだ」
もう一人の私「次から次へと来る私にこうして接触していくことになるだろう・・・いつまでも・・・」

私「・・・・・」
もう一人の私「しかし、落胆することはない。 ここを抜け出す方法は一つある」

私「え、どうすれば・・・」
もう一人の私「歴史を変えなければ、いいのだ。 つまり歴史を変えたときに戻り、何も無かったかのように通り過ぎればいいのだ」

私「過去に戻れるのか・・・」
もう一人の私「ああ、過去に戻るなんて簡単なことだよ」
「次に送られてくる自分がいるからその時に次元の扉が開く。 その瞬間を狙って入れ替われば、うまく過去にも戻れるはずだ。しかし一回しかチャンスはない。」

私「そうか・・・」

もう一人の私「でも簡単にはいかないよ!」

私「でも、その看護婦に声掛けなきゃいいんだろう、簡単、簡単・・・」
もう一人の私「無理・・・。 過去に戻ったとしても、その時の自分は自分でしかない。 今の状況なんて、まったく覚えていないんだ」

私「じゃあ、何か手紙をつけて戻るとか、服に何かメッセージを書いていくとか・・・」
もう一人の私「その次元に存在しないもの、文字も含めて、全て過去に戻った時点で消えてしまうんだ」

私「その次元にあるものか・・・何か、その時に声を掛けずに気を引く事象・・・・」

もう一人の私「もうすぐ、次元の扉が開く頃だ。どうする?」

私「よし、判った。一か八かだ。」
もう一人の私「チャンスは一度だけなんだぞ、いいのか・・・」

私「やるしかない・・・」

そして、次元の扉が開いた・・・・

~最終回へ続く~
小説「自転車旅行のつもりが・続編」 その7へ
小説「自転車旅行のつもりが・続編」 その5
私は気が少し動転した。
同じ時計が二つ・・・・

その時、目の前をスーっと風が抜けたような気がした。

直ぐにリビングへ戻ってみると、もう誰も居なかった。
すると、玄関を開ける音が・・・

子供「ただいま」

そう、子供が学校から帰ってきたのだった。
私は、さっきまで、朝、子供と話していたような気がしてたのだが、いつのまに時間が経ってたのだろうか?
ふと、時計を見ると、夕方の4時を回っている。

そして、子供をしげしげと見た瞬間。
なんか、子供が大きくなったような気がした。
気のせいか、まだ小さい小さいと思っていたのだが、子供の成長とは早いものだ。

妻「あなた、いつからか知らないけど、よく黙り込んでる時間が多くなったけど、何かあったの?」
いきなり、背後からの妻の声にビックリした私だった。

私「なんだ、帰ってたのか、いきなり声かけるから、びっくりしたじゃないか」
妻「だって、もう夜なのにずっと部屋で考え事してるんだもの。それにいつまでも子供のことを子供扱いしてたら、あの子がかわいそうですよ。」
私「そうかな?だってまだ子供なんだから・・・」
妻「もう中学生なんですから、少しは扱いを変えてください」

私「え・・・」

もう、中学生だって?
私はまったく気づいてなかった。
そんなに、最近物忘れが酷くなってきたのだろうか?
なんか、頭が痛くなってきたので、今日は晩飯を食べずに寝ることにした。

それからだった。
私の記憶がさらにあいまいになりだしたのは・・・

あれから、どれぐらい経ったのだろうか、外が明るくなっきたので目が覚めた。
なんだ、もう朝なのか・・・

そして、1階へと降りていった。

誰も居ない。
あれ、もうみんな出かけちゃったのか?
しまった、会社に遅れちゃうよ!!
と、時計を見ると、まだ朝の6時だった。

それにしても・・・と、辺りを見渡すと、何か違う!
部屋の中が、なんとなく古めかしく感じるのだった。

そして、玄関で物音がした、と思ったら風のようなものが、スーっと抜けて行ったような気がした。

あれ?っと思い、また部屋に戻ろうとしたとき、何か外で大きな音が・・

外に出てみると、何もない。
気のせいか?

それにしても妻と子供はどこに行ったんだろう?
さっきまで一緒にいたはずなんだが・・・

そして、また部屋に戻ろうとしたとき、また目の前をスーっと風が抜けたような気がした。

そのあと、隣の部屋から何か匂いが漂っているのを感じた。
この匂い、線香かなんかの匂いだった。

みんな隣の部屋に居るのかと思い、隣の部屋へと足を踏み入れた。
しかし、誰も居なかった。

その部屋には、小さな仏壇があり、線香はそこから漂っていたようだ。

あれ?うちに仏壇なんてあったっけ?

そう、仏壇なんて、置いた覚えがないのだ。
今の今までそんなものが無かったのに、なぜ?

そして、恐る恐るその仏壇を覗き込んでみた。
すると、そこには2つの位牌と写真があった。
一人は40歳は過ぎているだろう年配の女性の写真。
もう一つは、20歳ぐらいの男性の写真だった。

そして、その写真をじっくりみた。
次の瞬間、目を疑ってしまった。

そう、その女性の写真は妻の顔に似ている。年は取っているが似ているのだ。
それに、男の写真・・・息子か。
どういうことだ・・・・

私は夢中で玄関を裸足で飛び出してしまっていた。
すると、近所の人が、何やら集まっている。
しかも、こっちを見てヒソヒソと話している。

さらに辺りを見回すと、もう日が暮れかかっていた。
なんだって、もう夕方かよ・・・

私は、何がなんだか判らなくなって、その場に突っ立てるだけだった。
すると、サイレンを鳴らしてくる一台の車が・・・
その車は、私の家の前で止まった。

そして、私を担架に乗せた。
そう、その車は救急車だったのだ。

私は、まったく体が動かず、されるがままに病院に連れて行かれたようだ。
そして、気を失っていたのか、目が覚めた。

やっぱり、ここは病室だ。
周りには、看護婦やら先生らしき人が居る。

先生「あ、やっと目を覚ましたようだね。」
私「あ、ここは?ここはどこですか?私はどうしたのでしょうか?」

先生「君はもう1週間も眠り続けていたんだよ」

私は、またあの忌々しい出来事を思い出した。
また、あの病室に戻ったのか、それともまだあの病室のまま夢を見ていたのか?
逆にそうだとしたら、良かった・・・と思った。

先生「君はあの時以来、精神が不安定になって、手につけられない状態だったのだよ」
私「あの時・・・」

あの時って、いつのことだろう?
自転車で事故にあったときなのだろうか?

私「あの時って、いつからなのですか?」

先生「もう、1年も前のこと、奥さんと子供さんを事故で亡くして以来だよ」

私「え?事故で??」

じゃ、あの仏壇の位牌と写真・・・
それに、1年前だって?

先生「君は覚えてないのかね?1年前に不慮の事故で奥さんと子供を亡くして以来、情緒不安定になり、入退院を繰り返していたんだよ。 そして1週間前に退院を抜け出した・・・」

私「え!まったく覚えてないです。 記憶が途切れ途切れで、未だに子供が小さい頃の記憶しかないんです。」

そう話をしていたかと思ったら、また、スーっと記憶が飛んだ。

そして、またいくつもの風が抜けていったような気がした。
今度は、かなり長い時間だった。

何なんだ、ここはどこだ!
よく周りを見渡すと、どこかの古い部屋で倒れている。
おかしいぞ、さっきまで病室にいたはずなのだが・・・・

周りを見ると、蜘蛛の巣だらけ、まるで古い家に閉じ込められてるようだった。

ふと手元に、時計が2つ!

なんだ、この時計は・・・?
そうか、子供に買ってあげた時計だ!!

その時計をあらためてよく見てみた。
すると、一方に時計はあのときから1日しか経っていない。
つまり、物凄く時間の進み方が遅いのだ。

しかし、もう一方の時計・・・
そう、その時計は、あのときから10年以上も経過している。

もしかして、時間の進み方が極端に遅い時計、これが私の次元の時計で、10年以上経った時計、これがこの次元の時計なのだろうか。

この時計のせいで、お互いの時間が干渉しあって、時間が進んだり、止まったりしていたのか。

同じ次元に存在するはずのないこの2つの時計・・・

やっぱり、私はここに居る人間じゃないんだ。

これから、どうすればいい!
このままだと、生きてる心地がしないぞ。

いや待てよ。
この2つの時計、もしかしてどちらかの電池を抜くとどうなるのだろう?

もし、元の世界の時計を止めたら、この世界の人間としてまともに生きていけるのだろうか?
しかし、もう既に遅いのかもしれない。
今がいつなのかも判らない・・・

そして、決断したのは、この次元の時計を止めることだった。
それは、家族を失いたくなかった、それだけだった。

そして、時計の電池を抜いた・・・




~続く~
小説「自転車旅行のつもりが・続編」 その6へ
小説「自転車旅行のつもりが・続編」 その4
~玄関前に来た。

胸の鼓動が高まるのが感じられる。
まったく違う人物が出てきたら、どうする。
また、見知らぬ男が出てきたらどうする。

今まで起きた事が、走馬灯のように頭の中を過ぎる。
ここまで、自分自身、理解の限度を超えた事象を経験しているだけあって、このまま夢で終わって欲しいというのは、あくまで願望で、もうこれ以上話の展開が変わること自体避けたい。

ドアにキーを差込んだ。
キーが入った。
やっぱり、今までの事は夢であって欲しい。
何もかも私の記憶から消し去ってくれないだろうか・・・

そっと、ドアを開けた。




家の中は静まりかえっている。
先ほどまで表にいたときには、部屋の電気が付いてるように見えたのだが、長い間玄関前に居たせいだろう。
もう、部屋の中は真っ暗だった。

私は、そっと玄関から上がり、リビングへと入っていった。
そして、電気を付けた・・・

何も変わってない。
いや、同じだ。
テーブルの上は、綺麗に片付けられている。
部屋の配置も、置いている物も、私の記憶が正しければ何も変わっていないようだ。

ふと、時計を見た。

なんと、夜中の2時を過ぎていた。
夕方には、家の前に来ていたと思っていたが、考え込んでいるうちにこんなにも時間が経っていたのか!

私は、そっと2階にある寝室へと上がっていった。

私の記憶が正しければ、私の妻と子供にそっくりの顔をしてるはずだ。
暗がりではあったが、顔を見た瞬間、そこに寝ているのは、正真正銘の妻と子供だ。
そう、確信するほかはなかった。

しかし、このまま起こすわけにはいかず、私は直ぐに寝室を出て行き、1階のリビングへと降りていった。
そして、そこにあるソファで寝ることにした。
私は、安堵感からか、直ぐに眠りに付いた。

しかし、直ぐに子供の声で目が覚めた。
どれくらい、寝てたのだろうか?
ほんの数分前に眠りついたかと思うほど、あっという間の時間だった。

そして、子供の声と妻の声で、私は正気を取り戻した。

子供「パパお帰り!」
妻「昨日、夜遅くまで待ってたけど、なかなか帰ってこないから、もう一晩どこかで泊まっているのかと思ったのよ! 携帯にかけても?がらないし・・・」

ああ、私の家族だ。
この一瞬で、今まで起きたことを全て忘れてしまったのだ。



それから、今までどおり元の生活へと戻り、家族3人で過ごすことになった。
そう、過去のことを全て忘れ・・・

私の幼少の記憶、その周辺に関わったもの過去の全てが同じなのだから・・・

そんな、しあわせな日々を取り戻した自分であった。
月日もあっという間にあの忌々しい事から約1年が経とうとしていた。
実に早く感じる。
本当に1年も過ごしていたのかいうぐらい、月日が流れるのは早いものだ。
子供もみるみる内に成長していく様が伺える。

そんな、しあわせな生活を取り戻し、全てを忘れようとした時だった。
今日は休み、昼間コーヒーでも入れてくつろいでいたところであった。
その時つい手が滑って、コーヒーをこぼしてしまった。

その時、何か大きな音が・・・

「Pipipipi・・・・・・」

何だろう?何かのアラームのようだが・・・
その音の方向を探すと、テーブルの下にあった私のサイクルウェアからだった。

ウェアには小さなポケットがある。
なにが入っているのだろうと、探ってみると・・・時計だった。
それは、1年以上前に子供に買ってあげたおもちゃの時計だった。
私が自転車旅行に行く時に、子供がいたずらで入れたんだな。

しかし、なんで今頃アラームが・・・
その時計を見ると、電池を入れる裏蓋が完全に閉まってなく、その隙間からこぼれたコーヒーが入りショートして、そのせいでアラームがなっていたようだ。
私は、その時計を綺麗にして、蓋を閉めなおし、そっと子供部屋の机の上に置いた。

そして、その翌日の朝のことであった。

子供「パパ、この時計・・・」
私「ああ、それはお前に買ってあげた時計だったな」
子供「この時計、動かなかったんで、もう一つの時計の電池と入れ変えたよ」

私「え?もう一つの時計って?」

子供が差し出した時計、まったく同じものが2つだった。

私「えっ!時計が二つ・・・」

そう、確かに子供に買ってあげたデジタル時計、まったく同じものだった。
2つ買った覚えがない、似たようなものがたまたまあったのか?

そして、その2つの時計を見比べてみると、一方はちゃんと動いていて、現在の時間を示している。
しかし、見つけてきた時計は、表示はしてあるが、止まっているように見えた。
デジタル時計だから、電池がなくなっているのであれば、表示が消えてるはずだ。

コーヒーをこぼしたから、壊れちゃったのかな?
よく凝らして見ると、表示されている時間に、約1年のずれがあったが、止まっているのではなく、秒の表示がゆっくりと動いていたのだ。
なんだ、一応動いてるんだ、凄い遅いけど。
そして、裏の製造番号を見ると、まったく同じ・・・

次の瞬間、私は、ハッとあることに気づいた。
2つ同じものがある・・・とうことは

この星に来た私、本来ならこの星の私がもう一人居るはずだ。
同じ次元に同じ人間は2人存在しないという法則からいうと、この世界では私は一人のはずである。
この時計、私のウェアに入っていたもの。
もしかして私の時限から一緒に来た時計なのかもしれない。

となると、この2つの時計が同時に存在することはありえないはずだ。

いや、もう、そんなことは考えたくない。

しかし、また、何か嫌な予感がする・・・・

~続く~
小説「自転車旅行のつもりが・続編」 その5
小説「自転車旅行のつもりが・続編」 その3
朝になった。

どうも、夕べは飲みすぎたようで、完全に二日酔いです。
よその家とは言え、起こされなければ、いつまでも寝てしまってたかもしれない。
どうも、昨日の記憶が断片的だ。
なんか、妙な夢までみたようだ。

しかし、夕べはかなり酔ってたのだろう。
頭がガンガンする。

もしや、何か変なことしてないか、それだけが気がかりだった。

特に娘さんに・・・・

恐る恐る、皆の居る部屋へ挨拶へ行きました。
もう、朝食の準備は出来てるようで、私を待っていてくれたようだ。

私「あ、おはようございます。夕べはいろいろとありがとうございました。」

男「ああ、構いませんよ。 早く朝食でも食べませんか。 どうぞここに座って」

今のところ、特に変わった様子もない。
遠慮してるのか?

部屋を見渡したが、何か壊したような様子もないようだ(笑)

でも、娘さんには顔をあわせ辛かった。
もし、変なことでもしてたらと思うと・・・

朝食を済ませ、早速帰路に着こうと、自転車の準備を始めた。

すると、娘さんが、私のところに来た。

娘「昨日はとても楽しかったですね!」

私「え・・あ・・いえ、こちらこそ楽しかったです・・・ハハハ」

どうも、何事もなかったような感じだ。
それとも・・・・

娘「昨日はかなり酔ってましたけど、大丈夫でしたか?」

私「あ、はい、ありがとうございます。ところで、昨日、私変なこと言ってません?してません? 神社の裏とか、月のこととか・・・」

娘「え?月・・・神社?」

私「いえ、何でもないです。気のせいです・・・ハハハ」

やっぱり、夢だったんだろうな。

私「本当にいろいろとありがとうございました。 では、また落ち着きましたら、お礼に伺いますので・・」

そう言って、帰路へと向かおうとしたところだった。

その時、背後から娘さんが一言・・・


娘「あ、忘れてました。 昨日はあの後、青い月が見れなくて、残念でしたね!」


私「・・・」

その言葉で、昨日の記憶が全てよみがえってきた。
真実だったんだと確信した。

しかし、振り向くことは出来なかった。
ただ、まっすぐ走ることしか出来なかった。
全速力で、その場を立ち去りたかった。

ここは・・・
この星は・・・

これが真実としたら
この地球は・・・
私の住んでいた地球じゃないのか?

つまり、この星に連れて来られたことが本当で、今まであった意味不明な出来事も本当なのだろう。

1000年後の地球・・・ここは、1000年前の地球とウリふたつの星。
いや、別次元なのかもしれない。

私の居た地球と、この星は別次元で同時に時間が進んでいて、あるきっかけで、別次元へと移動したが、それが1000年前に・・・

パラレルワールドか・・・

しかし、ここまでそっくりってことは、もしかして妻も子供も同じなのでは?
周りの人間もまったく同じってことか?

もし、それが本当だとしたら、もう元の地球に戻れる望みがない以上は、このままこの星の人間として・・・

どうせ、月が3つぐらい、どうってことないさ!
しかし、他に何か違うものがあるのかもしれない!それが怖い!


ああ、良くわからねぇ・・・

もう、今となっては、何が起きても動じない。
あまりにも現実離れした経験を積んでるだけに、これから起こることも、まったく苦にならない。

考えて走ってるうちに、次第と見慣れた景色へと戻ってきた。
そう、我が家の近くまでたどり着いたのだ。

この景色を見ただけでも、もしかして何かに騙されているのでは?思える。
もしかして、あの家族に・・・

そういえば、山を降りるときに会ったおばあさんの言葉・・・
しかし、そんなのありえないよな~

そして、我が家の前にたどり着いてた。
思い起こせば、初めにここに戻ってきたときには、妻と子供が他人になってたよなぁ!
あれが本当のことだとしても、もうごめんだな・・・冗談でも!!

玄関前まで来て、一呼吸した。
部屋には電気が付いている。


そして、私は玄関の鍵をそっと開け、扉を開いた。

~続く~
小説「自転車旅行のつもりが・続編」 その4